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別冊・詩と小説で描く「愛の世界」

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人生には二つの夢を持つ。其の一

~還暦を迎えた女の独り言~
夢1-1
私は、今年還暦を迎えた離婚暦のある独身女です。
二人の息子は、32才と30才に成り夫々結婚し別居しています。
私は一人でマンション暮らしです。家族のある67才の孝雄と愛し合っています。

近頃では七歳上の彼のセックスが衰えてきたのにも不満も感じない
幸せな日々を送って居りますが、離婚の後の五、六年は思い出すのも恥ずかしい
性に狂った毎日でした。

彼には其の頃の日常を打ち明けて居りますが、還暦を迎える今日この頃、
彼と結ばれてやっと得た普通の生活を大切にして生きる為に、
聞いて(読んで)頂いてそれらの昔を綺麗に捨て去りたいと筆を取りました。

58才頃の私は、十歳は若く見られるのが自慢でしたが、二年前から急に太り出して
今では11号のスーッを選ぶのに苦労しています。16年前離婚した当時は7号、
それがいつの間にか9号サイズ、孝雄と深くなって暫くの間に11号への変化は私の
男性遍歴が影響しているのかと苦笑する事があります。

孝雄が買って呉れるスーツに精一杯化粧し二人で出掛ける時は
殿方の視線を意識して、外見は何とか見られる様にしている積りですが、
ホテルの浴室の鏡映る裸体は、垂れた大きな乳房を突き上げる様な二段腹、太い足、
昔黒々と密生していた陰毛はすっかり疎らになって白髪混じりの情けないポーズです。

この十年男断ちして来たそんな私を、再び色欲に狂わせたのが孝雄なのです。
奥様のいらっしゃる彼に、何時かは去られる日が来る事は
覚悟の上での愛人生活なのです。

私は、今住んで居る町(市)に有る公設市場の商店主達が今様のスーパー形式に
切り替えた食品主体のこの共同組合に転職して間もなく十年になります。
女性ですが経理の経験を買われて主任として五人の専従職員と
三十人のパートを管理し、経理の纏めをして居ります。

孝雄は小商社を定年後、組合長の縁で経理担当として二年前に入社、
業務のコンピューター化を始め、商品企画、宣伝等に目覚しい実績を上げ、
去年の春支配人として全般を任されたのです。

彼が着任した年の秋、恒例に成っている慰安旅行の宴会の後、
旅館のみやげ物売り場でブローチを見ていた私に近寄ってきた孝雄が、
「どれがいいの」と聞くので何気なく「これ」と指差した品を店員に取り出させると
私の手に渡しました。

ハナエ・モリ作の金銀細工の蝶のブローチは、羽の繊細な出来が素晴らしく、
私が思わず「いいわ」と呟いている間に、彼は部屋のキーを出して、
「これ貰うよ」と店員に告げていました。この旅館での買い物は部屋のキーで
処理されてチェクアウトの時に精算するシステムに成っていたのでした。


夢1-2
「こんな高価なもの」と私が戸惑っている間に孝雄は「包まなくていいから」と
ケースを握らせ、「記念にね」と笑いながら部屋に去りました。

それから間もなく、時々お茶に誘われる様に成った私が
十年ぶりに男性に唇を許したのは月末で残業をして仕事が終わり
「遅くなったから送って行くよ」と私をタクシーに乗せた彼に、
私の部屋を見せると言った夜でした。

この一年の間に孝雄の仕事振りと、年を感じさせないセンスのよさと、
温和な人柄が、長い独り身の、ふと老いを感じる私の心を
何時の間にか占めていたのです。

すすめられる侭についお酒を過ごして、
離婚してから二人の息子を何とか一人前に育て、遮二無二働いて来た事を
夢中で語っていた私は自分の言葉に酔っていました。

夜独りマンションの部屋の鍵を開ける寂しさを彼に告げて居る時、
私は此の儘彼とそこに一緒に帰るように錯覚していました。でも孝雄は、
玄関に立ったまま部屋を見渡して、帰ると言うのです。

私は思わず彼の手を取り、
「お茶でも・・・」と呟きながら玄関の土間で孝雄に飛び付いていたのです。
抱かれて口付けされて夢中で彼にしがみ付いていた私に、
孝雄は「戸締りを・・・」と、そっと声をかけて出て行きました。

エレベーターまで送るのも気付かず暫く玄関に座り込んでいました。
体中の力が抜けて、バスにお湯を入れる間もうつつでしたが、
脱いだパンティの中心がべっとり濡れているのに気が付き、
独りで顔を赤くしてしまった事を覚えています。

バスタブの縁に頭を乗せ、私は重みの有る両の乳房を揺すって悶えました。
何時の間にか、右手が恥ずかしい処を這い、開き、溢れてくるものと、熱いお湯が
混ざるにまかせて固く尖ってきたものを擦り、指を入れてしまいました。
男を絶つと誓ってから十年、五十を過ぎても体が熱くなる夜はありましたが、
自分で触れる等と言う事は有りませんでしたのに、孝雄との口付けが体に火をつけて
しまったのでしょうか。私はバスタブの縁を跨ぎ、そこに押し付けて腰を振り立て、
彼の名を呼びながら果ててしまいました。
夢1-4
其の夜は、はしたないと自分を責めながら、布団を両脇に挟み悶々と明かしたのです。
眠れない儘に翌朝、何時もより早く出た私は、若い娘のような気持ちで赤いバラを買って、
孝雄のデスクの花瓶の花と取り替えました。事務所の女の子が、
「山田さん、今日は何か生き生きしてますね」
と言ったのは、少し濃い目のルージュのせいばかりではないと思いました。

昼、お茶を持っていった私に孝雄は、「綺麗な花を有難う」と言ってくれましたが、
昨夜の事には触れません。私が傍に寄り小声で、「昨夜はご馳走様でした」と言いますと、
「いや・・・、それより今度の休み、時間とれる?」と聞くのです。
私は思わず体が熱く成るのを覚えながら、「ええ、いいです」と答えていました。

二日後、彼からそっと渡されたメモには、
その休日の待ち合わせ場所と時間が書かれていました。其の日は美術館で絵を観た後、
食事に誘われました。都心とは思えない料亭での二人きりの食事は豪華でしたが、
私は上の空で頂きました。

食後、障子窓を開けて彼は、「来てご覧」と呼びます。三階の部屋の下には河が流れ、
向かいのビルにはぽつぽつ電気が点り始めて綺麗です。
後ろに回った孝雄の両手が私の乳房を押さえ口がうなじを吸い、耳元に、
「綺麗だよ、芙美子、愛しているよ・・・」
と囁かれた時、私は立っているのがやっとでした。

信じられないほど、料亭に近いところにラブホテルが有りました。
孝雄は手馴れた様子で部屋のカードを取るとエレベーターに誘います。
十二、三年前、よく使った頃の部屋とはまるで違う豪華な調度と、
広いガラス張りの浴室に、べっどの真上の鏡などを目にした私は、
思わず枕元に駆け寄り幾つかの照明を懸命に消していました。
  1. 2014/09/02(火) 15:16:29|
  2. 離婚歴のある女
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