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別冊・詩と小説で描く「愛の世界」

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15年ぶりに味わった涙と性の宴。其の二

◇気のいいおばちゃん
15年ぶり2-1
妻との出会いは、造幣局の通り抜けがとても美しかった季節でした。
某三流大学を卒業し、運送会社に就職が決まった私は、桜ノ宮近くの朽ち果てた様な
アパートで、一人暮らしをすることに成ったのですが、このアパートが毎年、
取り壊されると噂されているほど古い木造作りで、廊下は昼間でも薄暗く、
壁はベニヤ板かと思うほどの薄さ。風呂は当然無く、便所は共同。
六畳一間に、申し訳程度についた台所があるだけの、快適さとはおよそ無縁の住まいでした。

初めての一人暮らしだった為、戸惑うばかりで、とくに炊事や洗濯にはほとほと困っていました。
それで食事を外食に頼ったのですが、安月給のため、月の後半になると行けなくなり、
仕方なく自炊をするのですが、これがもうムチャクチャ。
キャベツに塩をかけておかずにしたこともありましたし、目玉焼きとご飯だけというメニューが
続いた事もありました。

洗濯にしても、今の様にコインランドリーが何処にでも有る時代と違って、アパートの近くには
有りませんでした。下着は銭湯に行ったついでにコソコソと洗っていたものの、Yシャツやズボンは
食事と同様、普段はクリーニングに出し、給料前になると手洗いしていました。
アイロン等も無く、せんべい布団の下に敷いてプレスをしていたのですが、寝相が悪いから、
いつも折り目は二つも三つも出来てしまいました。
そんな私を見兼ねて色々と世話をしてくれたのが、妻だったのです。

妻は私より13歳上ですから、当時は35歳。私にしてみれば完璧に「おばちゃん」です。
正直、性的な興味は持っていませんでした。しかも、妻はその数ヶ月前に離婚をしたようで、
いつも背中に乳飲み子をしょっていたのです。


15年ぶり2-2
「子持ちの気のいいおばちゃん」
当初、私は妻のことをそれ以上にも、以下にもとらえてはいませんでした。

当時、妻は幼い和恵を連れて、京橋のスナックで働いていました。
和恵を二階に寝かしつけてから一階に降り、客の相手をしていたようです。
途中で和恵が泣きじゃくると、客に頭を下げて二階に駆け上がり、母乳を飲ませていたのです。

普通ならばそんな生活感のあるホステスなどは雇って呉れる所は無いのでしょうが、
スナックのママがとても人情家で、妻を決して見捨てることはしなかったようです。
もっとも、若いホステスからは、かなり白い目で見られていたようですが・・・・。

ホステスと言えば派手な外見が相場で、とくに大阪はその傾向が強いようですが、
妻は水商売とは思えぬほど地味な女でした。着ている物はもちろん、
雰囲気そのものが地味なのです。顔のつくりはイイ線いってるのですが、
華やかさとは無縁の雰囲気を醸していたのです。
しかし、妻が客からそれなりの支持を得ていたのは、
誰にも負けない優しさがあったからだと思います。

財布を忘れたという客に、自分が欲しいぐらいなのにお金を貸してあげたり、
帰り道に寂しそうに歩く捨て犬を見つけると、わざわざ家からチーズやウインナーを
持って来て食べさせてあげたり、誰も手をつけないアパートの玄関近くの雑草を、
和恵を背負いながら黙々と抜いていたり・・・・。

そんな妻ですから私に対しても、本当によくしてくれました。
「村上君、洗濯物があるんなら、ついでに一緒に洗ってあげるわよ」
と声を掛けてくれ、
「外食ばかりだと栄養不足になるから」
とカボチャの炊いたものや里芋の煮っ転がし、ブリの照り焼きなどを持って来てくれ、
たまに「こんな汚い部屋に住んでいると病気になるで」と私を追い出し、
部屋を隅から隅まで綺麗にしてくれる事も一度や二度では有りません。
まるで、私を実の弟のように面倒をみてくれたのです。

そうこうしているうちに、私の中で当初からあった、
「子持ちの世話好きな気のいいおばちゃん」という、どちらかと言うと軽蔑を含んでいた
印象は徐々に薄れていき、いつしか恋心を抱くように成ってしまったのです。
  1. 2012/10/09(火) 18:23:15|
  2. 熟年夫婦の色々
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