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別冊・詩と小説で描く「愛の世界」

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淪落主婦。其の九

◇これが幸せなのね
61.jpg
二十五年振りに見る我家は外観こそ白いサイディグボードに張り替えられ窓や玄関引き戸は
アルミサッシュに取り替えられて居りましたが、その佇まいは間違いなく我家でした。
手入の行き届いた植え込みや娘達が掃除をしたのでしょうか、
綺麗に掃き清められている玄関先。
玄関引き戸を開けて一歩足を踏み入りると其処には8人の孫と6人の子供夫婦の笑顔が、
重なるように並んでいました。

良くテレビなどで離れ離れに成っていた親子が何十年振りかに再会する場面では、
「涙のご対面」が当たり前のように放映されていますが、
我家のご対面には涙は有りませんでした。
まるで日常に繰り返されているような買い物から帰った母親を迎える様に、
「お帰りなさいお母さん」と娘が言うと「お帰りなさいお婆ちゃん」
と娘の中学生になる孫娘が言いました。
私は返す言葉もなく溢れる涙を只々拭い去るだけです。

今年三歳に成るという8人目の孫が照れくさそうに私に擦り寄ってきました。
「光二ちゃんね、私がお婆ちゃんよ・・・」
後は言葉が出ません。
涙でクシャクシャに成った顔で光二に頬擦りしキツクキツク抱きしめました。
「お婆ちゃんクルシイよ~」
「あら、あら、ごめんねー。光ちゃんが余りに可愛いから・・・」

「さぁ、こんな狭い玄関口に何時までも居ないで居間にいこう」
と夫が言いました。 

25年前の居間は私達夫婦と三人の子供で、かなり広い居間だと思っていましたが、
今の我が家には3倍以上の笑顔が溢れ帰っていて、足の踏み場も無い様子です。
男の子達のお嫁さん二人とも優しそうで皆美人です。

娘のお婿さんはお寿司屋さんの職人で、沼津に自分の店を持つのが夢だとか。
背の高い中々のイケメンです。

孫は高校生を出頭に三歳児まで8人も居るのです。
三歳の光二が二十歳に成る頃は、夫も私も80を超えてしまいます。
(長生きしなくちゃね、あなたぁ)
私は心の中で夫に語りかけました。
END

  1. 2012/10/09(火) 15:17:11|
  2. 熟年夫婦の色々
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